ある日突然、テナントと連絡が取れなくなった。あるいは、突然の倒産通知が届いた——。 貸主(ビルオーナー・管理会社)様にとって、まさに青天の霹靂とも言える事態です。
事務所や店舗に残された大量の什器、書類、そしてゴミの山。「家賃も滞納されているし、一刻も早くすべて捨てて、次の入居者を募集したい!」と考えるのは当然のことです。
しかし、ちょっと待ってください。 その「残されたゴミ」、勝手に処分すると違法になる可能性が高いことをご存知でしょうか?
「夜逃げした相手が悪いのに?」と思われるかもしれませんが、手順を間違えると、後から「勝手に資産を処分された」として損害賠償を請求されたり、警察沙汰になったりするリスクがあります。
本記事では、産業廃棄物処理の専門家が、テナントの夜逃げ・倒産時に残された「残置物」について、法的トラブルを回避しながら適正に撤去・処分するための正しい手順を解説します。

目次
なぜ「勝手に処分」は絶対NGなのか?3つの法的リスク
日本の法律では賃借人(テナント)の権利が手厚く守られており、たとえ相手に非があっても、正規の手順を踏まなければオーナー側が「加害者」になってしまう可能性があるからです。
ここでは、必ず知っておくべき3つの法的リスクについて解説します。
ゴミに見えても「他人の財産」である(所有権の問題)
たとえ壊れたオフィスチェアや、散乱した書類、賞味期限切れの食品であっても、法的には「テナント(賃借人)の所有物」です。
夜逃げや行方不明になったからといって、自動的に所有権が放棄されたことにはなりません。連絡が取れない状態であっても、所有権は依然としてテナント側にあります。
そのため、オーナー様がこれらを勝手に廃棄することは、「他人の財産を勝手に捨てた」ことになり、民法上の不法行為(権利侵害)に該当します。あくまで「預かっている状態」であると認識する必要があります。
法律で禁止されている「自力救済」とは?
日本の法律には、「自力救済(じりききゅうさい)の禁止」という大原則があります。
これは、「何らかの権利(家賃請求権など)を持っていても、法律の手続き(裁判所の強制執行など)によらず、実力行使で権利を実現してはいけない」というルールです。
よくある誤解として、「賃貸借契約書に『契約終了時の残置物は、貸主が処分できる』という特約を入れているから大丈夫」というものがあります。 しかし、過去の判例では、こうした特約があっても、自力救済にあたる処分行為は「違法」と判断されるケースが少なくありません。
公的な手続きを経ずに、鍵を交換して閉め出したり、荷物を勝手に搬出・処分したりすることは、原則として認められていないのです。
トラブル事例:後から損害賠償請求されるケース
「夜逃げするような相手だから、戻ってこないだろう」という油断は禁物です。実際に以下のようなトラブルが発生しています。
処分後にテナントがひょっこり現れ、「あの荷物の中には現金が入っていた」「重要な顧客データが入ったPCがあった」と主張され、高額な損害賠償を請求されるケース。
民事上の賠償だけでなく、勝手に処分したことで「器物損壊罪」に問われたり、高価なものを売却したことで「横領罪」や「窃盗罪」を疑われたりするリスクもあります。
家賃を取りはぐれた上に、さらに賠償金まで支払うことになっては本末転倒です。この最悪の事態を避けるためにも、次章で解説する「正しい手順」を踏むことが重要です。
残置物を適正に撤去・処分するための4ステップ
リスクを回避し、最短で原状回復を行うためには、手順を確実に踏むことが重要です。
STEP1:賃貸借契約書の確認と連帯保証人への連絡
まずは「賃貸借契約書」を確認しましょう。多くの契約では、契約解除時の原状回復義務について記載されています。
次に、テナント本人と連絡がつかない場合は、速やかに「連帯保証人」へ連絡を取ります。 連帯保証人は、滞納家賃だけでなく、原状回復費用(残置物の撤去費用)についても支払う義務を負っています。連帯保証人の協力を取り付け、撤去作業の同意や費用の負担を交渉するのが第一歩です。
STEP2:「所有権放棄書」の取得(または明け渡し訴訟)
ここが最大の山場です。残置物を処分するには、所有権の問題をクリアにする必要があります。
最善策:所有権放棄書の取得
テナント本人、または代理権を持つ連帯保証人から「残置物の所有権を放棄し、貸主による処分に同意する」という旨の書面(所有権放棄書)に署名・捺印をもらいます。これがあれば、オーナー様主導での処分が可能になります。
次善策:法的手続き(明け渡し訴訟)
相手が夜逃げをして行方不明、かつ連帯保証人もいない(または応じない)場合は、裁判所に「建物明渡請求訴訟」を起こす必要があります。勝訴判決を得た後、裁判所の執行官立ち会いのもとで「強制執行(断行)」を行うのが、法的に身を守る唯一の確実な手段です。 ※手間と費用はかかりますが、後々の損害賠償リスクをゼロにするためには必要不可欠です。
STEP3:資産(有価物)と廃棄物の仕分け
法的な処分権限を得たら(放棄書の取得または強制執行後)、いざ片付けに入ります。いきなり全てをゴミ箱に入れるのではなく、以下の視点で仕分けを行います。
有価物(売れるもの)
比較的新しいOA機器、厨房機器、ブランド家具などは、リサイクルショップ等に買い取ってもらえる可能性があります。売却益は未払い家賃の回収に充てましょう。
機密情報
パソコンのHDD、USBメモリ、顧客台帳、経理書類などは慎重な扱いが必要です。そのまま捨てると情報漏洩事故につながるため、専門業者によるデータ消去や溶解処理を手配します。
STEP4:産業廃棄物収集運搬・処分業者への委託
テナントが事業活動で使用していた物は、家庭ごみ(一般廃棄物)として出すことはできません。これらは「産業廃棄物」として処理する必要があります。
必ず、都道府県知事の許可を受けた「産業廃棄物収集運搬業者」および「処分業者」に委託してください。 ここでのポイントは、以下の2点です。
書面での委託契約:口約束ではなく、必ず契約書を交わす必要があります。
マニフェスト(管理票):廃棄物が適正に処理されたことを追跡・確認するための伝票を発行する義務があります。
「安く片付けます」という無許可の業者に頼むと、不法投棄のトラブルに巻き込まれる恐れがあるため絶対に避けましょう。
ここが重要!ビルオーナーが「排出事業者」になる時
所有権が移ったら、処理責任はオーナーへ
残置物の所有権がオーナー様に移った瞬間、そのゴミを出す主体(排出事業者)は、「テナント」から「オーナー様(貸主)」に変わります。
つまり、産廃業者への委託契約は、テナントの名前ではなく、オーナー様ご自身の名義で締結する必要があります。 「元々はテナントのゴミだから」という意識ではなく、「自社(自分)の所有物として処分する」という認識で手続きを進めましょう。
マニフェスト(産業廃棄物管理票)の発行義務
排出事業者(オーナー様)になった以上、法律で定められた「マニフェスト(産業廃棄物管理票)」の発行義務が生じます。
マニフェストとは、排出したゴミが最終処分まで適正に処理されたかを確認するための伝票です。不法投棄トラブルなどを防ぐための重要な書類であり、排出事業者は処理終了後、このマニフェスト(写し)を5年間保存する義務があります。
初めての方には難しく感じるかもしれませんが、許可を持った正規の産廃業者であれば、マニフェストの運用方法や電子マニフェストの登録についてもサポートしてくれますのでご安心ください。
一般廃棄物と産業廃棄物の区分け
残置物をすべて「産業廃棄物」としてまとめて処分しようとすると、費用が高額になることがあります。
実は、業種や物の種類によっては、「事業系一般廃棄物」として処理できるものが含まれている可能性があります。 (例:建設業や製造業などを除く、一般的なオフィスから出る「紙くず」や「繊維くず」など)
これらを事前に分別し、事業系一般廃棄物のルートで処理することで、トータルの処分費用を抑えられるケースがあります。 見積もりを取る際は、廃棄物処理業者に「分別することで費用を安くできないか?」と相談してみることをおすすめします。
処理費用を回収するためにできること
テナントの不始末による費用を、オーナー様が負担するのは理不尽な話です。しかし、少しでも損失を補填するために、以下の視点で回収と事後処理を考えましょう。
敷金・保証金からの充当と計算方法
最も確実な回収方法は、入居時に預かっている「敷金(保証金)」からの充当です。
一般的に、敷金は以下の優先順位で充当されるケースが多いです。
未払い賃料・損害金
原状回復費用(残置物撤去費用を含む)
まずは滞納家賃を差し引き、残額を残置物の撤去費用に充てます。それでも足りない分は、テナント本人や連帯保証人に請求することになります。
この際、後々のトラブルを防ぐために、産廃業者への支払い領収書、マニフェスト、裁判にかかった費用の明細などは必ず保管し、「これだけの費用がかかった」という証拠を残しておいてください。
費用回収が難しい場合の考え方(損切り)
厳しい現実をお伝えしなければなりませんが、夜逃げや倒産案件では、かかった費用の全額回収が困難なケースが多々あります。 相手に支払い能力がなければ、たとえ裁判で勝訴しても、実際にお金を取り戻すことはできないからです(「ない袖は振れない」状態)。
ここで重要になるのが、「損切り」という経営判断です。
回収の見込みが薄い相手との交渉や裁判に時間をかけすぎて、何ヶ月も空室のまま放置してしまうのが、ビル経営においては最大のリスクです。 「悔しいが、手切れ金だと思って自分で処理し、1日も早く次の優良なテナントを入居させる」——そう切り替えた方が、長期的な収支ではプラスになることが多いのです。
なお、オーナー様が負担した残置物の撤去費用や未回収の家賃は、税務上で「貸倒損失」や「必要経費」として計上できる場合があります。税負担を軽減できる可能性がありますので、顧問税理士に相談することをおすすめします。
まとめ:焦りは禁物!弁護士と産廃業者の連携で解決を
テナントの夜逃げや倒産は、オーナー様にとって金銭的にも精神的にも大きな負担です。 「目の前のゴミを捨ててスッキリしたい」という気持ちは痛いほど分かりますが、一時の感情で勝手な処分をしてしまうと、後から「損害賠償」や「刑事罰」という、さらに大きなトラブルを招く恐れがあります。
今回の記事のポイントを改めて整理しましょう。
勝手に処分は絶対NG:自力救済の禁止により、法的なリスクが高い。
まずは権利の確定:所有権放棄書の取得、または法的措置で「処分権限」を得る。
適正な廃棄処理:許可を持った産廃業者に委託し、マニフェストで管理する。
この問題は、オーナー様お一人で抱え込むには荷が重すぎます。 法的な手続きについては「弁護士」へ、そして実際の片付けや廃棄物の区分については「許可を持つ産業廃棄物処理業者」へ、早めに相談してください。
それぞれのプロフェッショナルと連携することが、結果として最短かつ安全にトラブルを解決する近道です。 適正な手順できれいにリセットし、安心して次の優良なテナント様を迎え入れられる状態を整えましょう。
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